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【コラム21】交通事故の賠償金の支払いは免責されるのか?

重過失は免責されません!

今回は、交通事故の賠償金についてお話しようと思います。当事務所で自己破産の手続きをされた債務者Aさんのご相談内容を例にご紹介します。

【相談内容】

交通事故を起こしてしまい、賠償金を支払わなければいけなくなりました。しかし現在、自己 破産の手続きをしていますので、払いたくとも賠償金を支払うお金がありません。交通事故の損害賠償金は必ず支払わなければいけないのでしょうか?

【回答】

損害賠償金も債務になりますので、破産宣告を受け免責が確定される前に負った債務は免責することができます。しかし、たとえ免責確定前の事故であっても、破産者の故意または重過失により事故を起こした場合は、破産法第253条により免責は認められません。但し、軽過失と認められれば免責を受けることができます。

重過失と軽過失の実例

それでは、破産法第253条等を用いて軽過失や重過失に該当する事例や交通事故後に破産宣告を受けた場合などについて、詳しくご説明していきたいと思います。

(破産法253条) 免責許可の決定の効力等

免責許可の決定が確定した時は、破産者は破産手続きによる配当を除き、破産債権についてその責任を免れる。但し、次に掲げる請求権についてはこの限りではない。

  1. 租税等の請求権二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  2. 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  3. 次に掲げる義務に係る請求権 ※以下詳細については省略
  4. 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
  5. 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く)
  6. 罰金等の請求権

これら7つの中で今回のケースに該当するのが、3の「破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」となります。

では、故意または重大な過失(重過失)とは、どのような場合を指すのでしょうか? 

また、どこまでの範囲なら軽過失と認めてもらえるのでしょうか?

【重過失と評価される事例】

飲酒運転や速度超過、ひき逃げなどの故意による事故の場合。

【軽過失と評価される事例】

わき見運転やハンドル操作ミスなどの悪意のない事故の場合。

免責確定日により異なる賠償請求義務

交通事故による損害賠償の免責については、破産宣告を受け免責が確定していた後か前かによって免責になるかどうか違ってきますので、この点についても詳しくご説明しておきましょう。

●交通事故の前に免責が確定していた場合

交通事故を起こす前に、自己破産の免責が確定していた場合、“自己破産者が起こした事故”ということになります。ですので、そ免責確定の効果は事故の損害賠償請求債務にまで効力を発揮しないため、被害者から「賠償請求」される可能性はあります。ただし、法的強制力はありません。

相談者Aさんは、多重債務に陥り破産宣告を受け、事故を起こす以前に免責が確定しているため支払い能力がないとみなされます。ですので、実質的には支払いたくとも支払うことができないわけですから、損害賠償を法的に請求されることはありません。ただし、被害者がそれでは納得できず加害者に対して給与差し押さえの訴訟を起こす可能性はあります。

また、被害者が損害賠償請求権の時効を事故より3年という本来の期間(民法第709条)から、10年間という時効期間に延長(同第174条の2)をし、その10年で加害者が経済的に安定するのを待ってから請求するという方法もありますが、これは費用も時間もかかりますので現実的ではないでしょう。

●交通事故の後に免責が確定した場合。

交通事故を起こしてしまった後に免責が確定した場合、加害者となってからの自己破産ということになります。ですので、免責が決定している時点で、軽過失による物損などの賠償金の法的支払い義務は消滅します。

仮に、賠償金の額が決定していない時でも、それを支払う責任は免除されるということになります。つまり、交通事故を起こし加害者となり、相手への賠償金の支払い義務が生じていた場合、それは免責される他の借金と同様の扱いとなり支払い義務がなくなるということです。

いずれにしても、多重債務による自己破産をしたわけですから、支払い能力はないとみなされ、軽過失であれば免責されるのです。しかし、同じ自動車事故でも人身事故などの重過失、故意による事故の場合は、消滅しません。

では、少々ややこしくなってしまいましたので、「免責が確定してから起こした事故か、事故を起こしてから免責が確定したのか」という角度からもう一度整理しておきましょう。

●免責確定後に起こした事故

  • 賠償金を支払う義務はあるが、法的強制力はない。
  • 被害者が給与差し押さえなどの訴訟を起こす可能性はある。 
 

●事故を起こしてから免責が確定した

  • 軽過失なら法的支払い義務は消滅する。
  • 人身などの重過失は消滅しない。

免責されても事故の重さを忘れないこと

最後に、交通事故で被害者が死亡し、その後加害者が自己破産をしたことで、損害賠償金の支払いを免れるかどうかが争われた訴訟の例が過去にありますのでご紹介しておきます。

2002年、広島市内の県道で起きた事故です。加害者の男性は任意保険に加入せずに交通死亡事故を起こしました。広島簡裁は、業務上過失致死罪で男性に50万円の略式命令を出しましたが、この事故で19歳の息子を失った遺族は訴訟を起こし、男性には約3,200万円の賠償を命じる判決が出ました。

賠償金は加害者が保険に入っていなかったため、被害者男性が加入していた保険の特約から支払われました。しかし、契約上延滞損害金の一部約500万円は支払われず、被害者もこの500万円を支払わなかったため、遺族は申し立てを起こし加害者は給料を差し押さえられました。ところが、その後、加害者である男性は自己破産をし免責されたことから、差し押さえを認めないよう訴訟を起こしました。

今回の訴訟では、自己破産をしている男性が遺族へ損害賠償金の支払いを免責されるか否かが争われましたが、2007年、広島地裁は免責を認めず、「弔慰金」として240万円を20年かけ分割で被害者の命日に支払うようにという判決を加害者に下しました。

先にご説明したとおり、破産法では重過失で相手を死亡させた等のケースについては、自己破産をしていても免責は認められないとされています。しかし、裁判官が下したのは免責を認めずという判例ではなく、「和解」という双方の譲歩による合意でした。

和解勧告では「尊い人命を失わせた責任は一生背負っていくもので長く続けるのがよい」とし、毎年12万円を20年という長期に渡り支払うという和解案が提示されたのです。

判決は遺族感情に配慮したものですが、同時に加害者にとっても事故の重さを再確認し、その責任を一生背負っていくことで、2度と同じような事故を起こさないことにもつながるでしょう。また、自己破産をしたから払わなくても済むだろうという安易な考え方は持つべきではないということを、私たちはこの判決を通して学ぶべきだと思います。