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【コラム9】配偶者にも責任がある「日常家事債務」とは?

生活必需品などを購入する際の借金やクレジット契約

みなさんは、「日常家事債務」という言葉をご存知でしょうか?

食料品や衣類など衣食住にかかわる買い物や子供の養育や教育など、一緒に暮らすご家族が生活していくうえで必要となる日常家事に関する費用を、借金で支払ったりクレジットカードやツケ払いにしたりした場合の、第3者に対して支払うべき債務のことを「日常家事債務」といいます。

ですので、仕事上で必要となり借金をした、ギャンブルや旅行などに使うため借金をしたなどという場合は日常家事債務には該当しません。土地建物の売買も同様です。日常家事に該当するもの、しないものの目安は以下のとおりです。

●日常家事に該当するもの

  1. 家族が暮らす家の家賃、電気・ガス・水道などの光熱費
  2. 食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品の購入費
  3. 家族の医療費
  4. 子供の養育費や教育費 など

●日常家事に該当しないもの

  1. 高価な宝石や毛皮など収入に見合わない高額な商品の購入費
  2. ギャンブルのための借金
  3. 負債や損害賠償など仕事上の借金
  4. 交通事故や傷害、詐欺など夫婦の一方が起こした事件や事故による借金

民法761条で定められた夫婦の連帯責任とは?

では、日常家事債務に該当した場合、どのようなことが起こるのでしょうか? たとえば、お買い物が大好きな主婦A子さんが、新発売となった全自動洗濯機10万円、友人とのヨーロッパ一周の旅行費用40万円、子供の塾の費用10万円、計60万円を消費者金融などの貸金業者から借りたとします。このようなケースで、もしA子さんが返済不能となった場合、A子さんの夫は妻であるA子さんに代わって借金を返す責任が発生するかどうか・・・。

これについて、民法761条では日常家事債務における夫婦の連帯責任の範囲を次のように定めています。

『夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をして、これによって債務が生じた場合、他の一方も連帯して責任を負う』

この条文によれば、たとえ日常家事により発生した債務であっても、配偶者も連帯して責任をとらなければならないということです。

判例から見たクレジット契約の具体例

では、消費者金融などからお金を借りたのではなく、クレジットカードで買い物をしたときなどはどのようになるのでしょうか? 判例から見たクレジット契約の具体例を挙げておきます。

判例① (川越簡判昭和62年12月8日 判例集未登載)

妻が夫に無断で、セールスマンから学習教材を夫名義でクレジット契約をし購入。 判決では、夫の収入から考えて「事前に知っていれば本件のような高価な教材を絶対に買わなかったこと、が認められる」として、夫の連帯責任を否定。

判例② (札幌地判昭和47年11月10日 判例時報695号96頁)

内縁の妻は内縁の夫名義でカード契約をし、①お買物小切手帳(購入限度額2月間に5万円、支払いは10回分割払い)、②スペシャルカード(購入可能額は5万円以上で24回払い)の枠を利用し商品を購入。 判決では、①はその限度額が5万円と高額ではなく、購入目的が衣類や靴、家具など比較的日常生活に必要なものであるため日常家事債務に該当するとし、②は①の包摂できない商品が対象となり、高額でしかも返済が長期間であることから日常家事債務に該当しないとし、①については内縁の夫の連帯責任を肯定。

他にも、以下のようなケースがあります。

  • 15万円の電子レンジの購入 → 日常家事に該当する
  • 60万円の学習教材の購入(夫の年収約550万円) → 日常家事に該当する
  • 42万円の太陽熱温水器の購入(夫の月収7万円) → 日常家事に該当しない
  • 22万円の布団の購入(失業中) → 日常家事に該当しない

日常家事債務でも貸金業者からの借金は範囲外

こうして過去の判例を参考にした場合、A子さんが購入した洗濯機と子供の塾の費用に関しては日常家事に該当しますが、ヨーロッパ旅行は該当しないとなるでしょう。ですので、洗濯機と子供の塾の費用20万円については、配偶者である夫にも返済の連帯責任が発生すると考えられます。

ただし、たとえ日常家事に該当しない場合でも、配偶者が連帯保証人になっている場合は、連帯責任は発生しますので注意してください。

また、よくあるケースとして借金を返すために別の貸金業者から借金をする方がいますが、これも日常家事債務とはなりません。

とはいえ、最近では日常家事にかかわる借金であったとしても、貸金業者から生活費などを借り入れること自体が「日常家事債務」には該当しないとする見方が強くなっています。ですので、A子さんの場合も、洗濯機や子供の塾の費用を支払うのが目的で借金をしていたとしても、夫にはその支払い義務はないということです。

執拗な取り立てには刑事告訴や行政処分の申し立ても

もしも、配偶者が日常家事にかかわる借金をしていて支払いが滞り、貸金業者から「生活費のための借金なんだから、あんたにも責任があるんだよ!」などと、その妻や夫に執拗な取り立てをしてきた場合、断固として拒否し絶対に応じないことが大切です。

自分では対応が無理だと感じたなら、最寄りの警察や相手がクレジット会社であれば経済産業省、消費者金融であれば金融庁へ刑事告訴や行政処分の申し立てをしましょう。または、消費生活センターや私たちのような法律の専門家へご相談いただければ、最適な方法のアドバイスをさせていただきます。

万一、他人の借金の保証人になっていたり、自分名義の財産をご家族などが勝手に担保に設定していたり、第3者に譲渡されたりした場合なども、日常家事債務の範囲外となります。あくまでも、自分の知らないところで行われた行為であり、こうした行為に対してあなたが責任を負う義務は原則的にありませんし、失った財産などを取り戻すことも可能です。

では、夫の名前で妻が勝手にクレジット契約を結んで商品を購入した場合はどうなるのでしょうか?

もちろん、この関係がまったく赤の他人であれば、先ほどと同じく自分の知らないところで行われた行為ですので、勝手に名前を使われた本人には原則として責任はありません。

しかし、この関係が夫婦となると話は少々異なります。第3者から見ると、夫婦はひとつの共同体と見られることが多いことから、通常は夫婦の連帯責任をみなされます。ところが、戸籍上は夫婦であっても、その関係は破綻し別居している場合などは、連帯責任が問われない可能性が高くなります。

いずれにせよ、こうした問題はケースバイケースですので、配偶者がした借金でお困りの方は、当事務所の無料相談にてお気軽にご相談ください。